オリジナルシナリオ『泣いて笑って夢見てた』第2話
【今までのお話】奈菜子は、お笑い芸人を目指す兄の
代わりに、父親の病院を継ぐべく医者になる。
だが、高校時代から面倒をみてくれた兄の先輩で職場の
上司である高沢に、自分は医者に向いていないと訴える。
高沢は、「お前が医者をやめたらどうなるか、わかってるだろうな」
と兄の夢が崩れてしまう現実を突きつける。
奈菜子には、兄の夢を叶えるだけでなく、好きな人の
お嫁さんになるという夢をがあった。
登場人物
・有森奈菜子(26) 研修医
・高沢始(37) 奈菜子の上司
・有森優一郎((35) 奈菜子の兄、お笑い芸人・優太郎
・河野健太(7) 患者、優太郎のファン
・有森総一(62) 奈菜子の父親、有森病院院長
・河野真美(31) 健太の母親
・大杉(32) 優一郎のマネージャー
○エンタメビル・前 (夜)
お笑いライブのタテ看板。
○同 楽屋・中 (夜)
狭い個室でカップ麺をすする優一郎。
ノックの音、入ってくる奈菜子。
優一郎「奈菜子、珍しいな。お前が楽屋にくるなんて」
奈菜子「お兄ちゃん・・・」
優一郎「なんだ、そのしけた面」
× × ×
急須にお湯を注ぐ奈菜子。
優一郎「で、お前も高沢先輩についていきたいとかって思って
るわけ?」
動揺して、湯が手にかかる奈菜子、
奈菜子「あちっ」
優一郎「図星だった?」
奈菜子「違うよ。なんで私が・・・」
急須受け取って、湯飲みに注ぐ優一郎。
優一郎「好きなんだろう、高沢先輩のこと」
机の上の饅頭を無意気に頬張る奈菜子。
優一郎「お前の夢は、好きな人のお嫁さんになることだもんな」
奈菜子「やだな、そんな子どもの頃の夢」
優一郎「奈菜子ごめんよ。力になれなくて」
饅頭を喉につめる奈菜子、お茶をすすめる優一郎。
奈菜子「もう、お兄ちゃんが急に変なこというから」
優一郎「俺は覚悟している。いつ、お笑い芸人やめても悔いが
残らないように」
奈菜子「馬鹿なこと言わないでよ。私がどんな思いで医者に
なったか、優秀なお兄ちゃんにはわからないでしょ」
優一郎「わかってるよ。奈菜子がどんなに努力したか。こんなに
自分のために頑張ってくれた妹が悩んでるのに、何もしてやれ
ないなんて、俺は最低の兄貴だよ」
奈菜子「ごめん。お兄ちゃんに話したのが間違いだった。そうだ、
サイン頂戴」
優一郎「俺の?」
鞄から色紙を取り出す奈菜子、受け取ってサインを書く優一郎。
奈菜子「健太君へって書いてね」
携帯電話がなって出る奈菜子。
奈菜子「高沢先生! え、お母さん来てたんですか? その後、
健太君が居なくなったんですね」
奈菜子をみる優一郎。
奈菜子「わかりました。すぐ、戻ります」
電話を切る奈菜子。
優一郎「健太君って、色紙の?」
奈菜子「うん。もうすぐ心臓の手術なのに」
優一郎「大丈夫なのか」
奈菜子「うん。ありがとう、お兄ちゃん。じゃ、ライブ頑張ってね」
色紙を受け取って、部屋を飛び出していく奈菜子。
○歩道 (夜)
色紙持って走る奈菜子。
健太の声「僕んちパパとママが離婚するんだ」
転ぶ奈菜子、すぐに起き上がって、色紙を拾って走り出す。
○有森病院 玄関・前 (夜)
走ってくる奈菜子、中に入っていく。
○同 階段 (夜)
階段、かけあげる奈菜子、
奈菜子「健太君! 健太君!」
膝が痛んで立ち止まる。
膝から血がでていることに気づく奈菜子、だが、再び駆け
出す。
奈菜子「健太君!」
○同 談話室・前~中 (夜)
走ってくる奈菜子、
奈菜子「健太君!」
灯の消えた部屋、覗きこむ奈菜子。
通り過ぎようとして、テレビの横に黒い陰みつけて
灯をつける奈菜子、うずくまる健太。
奈菜子「健太君! 何してるの?」
健太のそばに近づく奈菜子。
健太「奈菜子・・・ほんとにママの代わりに傍にいてくれるの?」
奈菜子「うん。いるよ」
顔を上げる健太。
奈菜子「健太君のママ、今夜、会いに来てくれたんでしょ」
健太「うん。でも、僕の手術が済んだら、遠いところに行くんだって」
奈菜子「・・・・」
健太「僕はパパと暮らすんだ。でも、パパには別の家族がいる
から・・・僕には、もう、家族はいない」
奈菜子「そんなことないよ。ママに会いたくなったらママの所に
いけばいいじゃない」
健太「奈菜子・・・」
色紙を見せる奈菜子。
健太「優太郎のサイン?」
奈菜子「そうだよ。約束通りもらってきてあげたよ」
色紙を受け取る健太。
健太「ありがと、奈菜子」
奈菜子の胸に倒れこむ健太。
奈菜子「健太君!」
○同 健太の病室・中 (夜)
ベッドに眠る健太、傍でうたた寝している奈菜子。
そっと入ってくる高沢、毛布を奈菜子の肩にかける。
ハッとして立ち上がる奈菜子、毛布が床に落ちる。
奈菜子「すみません」
毛布を拾おうとして、奈菜子の足の怪我に気づく高沢。
高沢「足、どうしたんだ」
奈菜子「え? ああ、転んだんです。病院に戻る途中」
高沢「ちょっと待ってろ」
部屋をでていく高沢。
× × ×
膝を出して椅子に座る奈菜子、傷口に消毒薬をぬる高沢。
奈菜子「痛っ」
高沢「我慢しろ。ほんと、お前ってドジだな」
高沢をみつめる奈菜子、ときめく。
高沢「医者が怪我してどうするんだ」
奈菜子の膝にガーゼをとめる高沢。
高沢「よし、終わり」
奈菜子「ありがとうございます」
行こうとする高沢の背中に、
奈菜子「先生、あの、私、先生のことずっと・・」
ふりむく高沢、
高沢「有森」
奈菜子「はい」
高沢「手術の日、健太の両親に必ず病院にくるように伝え
といてくれ」
奈菜子「はい」
でていく高沢、立ち尽くす奈菜子、自分の膝のガーゼを
みて、ため息。
○エンタメビル 外観
○同 楽屋入り口
番組スタッフと話すマネージャーの大杉(32)。
大杉「限界ですかね。十年やって芽がでないとなると、マジ
やばいっすよ」
やってくる優一郎に、慌てて、
大杉「お疲れ様です。弁当、楽屋に届いてますよ」
優一郎「サンキュ」
楽屋の中に入っていく優一郎。
○同 楽屋・中
弁当食べる優一郎、箸が進まない。
大杉の声「限界ですかね。十年やって芽がでないとなると、
マジやばいっすよ」
腹部をおさえる優一郎、慌てて胃薬出して口に含む。
コップの水を一気に飲み干す優一郎、おおきなため息。
○有森病院 外観
○同 廊下
ストレッチャーで運ばれる健太、傍に付き添う奈菜子。
走ってくる河野真美(31)。
真美「健太!」
健太「ママ!」
真美「ごめん、遅くなって」
健太「仕事行っていいよ。僕、平気だから」
真美「健太・・・」
健太「奈菜子がいてくれるから」
奈菜子の顔をみる真美。
奈菜子「ずっとついてますから」
真美「よろしくお願いします」
頭を下げる真美、健太を乗せたストレッチャーが手術室の
中に入っていく。
○同 外観 (夕)
○同 健太の病室・中 (夕)
ベッドで眠る健太、傍につきそう真美。
点滴もって入ってくる奈菜子。
お辞儀する真美に、
奈菜子「健太君の手術が終わったら、遠いところに行かれるって、
本当ですか」
点滴を交換する奈菜子。
真美「実家のある九州に帰ろうと思って」
奈菜子「どうして健太君を連れて行ってあげないんですか」
真美「健太は父親が引き取ることになってます。それが離婚の
条件だから」
奈菜子「でも、健太君のお父さんは一度もお見舞いに来られた
ことがありません。今日も、仕事があるからと断られました」
真美「・・・」
奈菜子「それに、別の家族がいらっしゃるんでしょ」
真美「・・・健太・・・・」
健太の寝顔を見る真美の目から涙がこぼれる。
奈菜子「もう一度、健太君のために話し合われてはどうでしょうか」
真美「・・・・」
お辞儀して部屋をでていく奈菜子。
○同 外観 (夜)
電話のなる音。
○同 医局・中 (夜)
電話で話す奈菜子。
奈菜子「お兄ちゃん、心配してくれてたの? 大丈夫、上手く
いったよ。健太君の手術」
○エンタメビル 楽屋・中(夜)
携帯電話で話す優一郎、腹部を押さえたまま、
優一郎「お前は、大丈夫なのか。高沢先生がいなくなっても」
奈菜子の声「なんとかするよ。なんとか」
優一郎「そういう意味じゃなくて・・・」
激しい傷みに、体を曲げる優一郎。
奈菜子の声「お兄ちゃん?」
○有森病院 医局・中(夜)
受話器にぎる奈菜子、
奈菜子「お兄ちゃん!」
入ってくる高沢。
高沢「どうした?」
奈菜子「兄の様子が変なんです」
電話を変わる高沢。
高沢「優一郎、どうした?」
○エンタメビル 楽屋・中 (夜)
腹部押さえたまま携帯電話を握る優一郎、倒れこむ。
床に携帯電話が転がる。
○有森病院 医局・中 (夜)
受話器持つ高沢、傍に奈菜子。
高沢「優一郎! しっかりしろ」
奈菜子「何があったんですか」
高沢「彼は今どこにいる?」
奈菜子「渋谷のエンタメビルの楽屋です」
高沢「わかった」
電話をかけなおす高沢。
○エンタメビル 楽屋 前~中 (夜)
やってくる大杉と救急隊員、
大杉「だから、いたずら電話に決まってます。さっきまで舞台に
立ってたんですから」
中に入る大杉、倒れている優一郎に、
大杉「えーっ、有森さん! 嘘だろ、有森さんしっかりして下さいよ」
担架に優一郎を乗せる救急隊員。
○大通り (夜)
走る救急車。
○有森病院 救急受付入口・前 (夜)
救急車がやってくる。
○同 処置室・中 (夜)
台の上に横たわる優一郎。
走って来る白衣の奈菜子。
奈菜子「お兄ちゃん、しっかりして!」
優一郎「奈菜子か、白衣、よく似合ってるよ」
むせる優一郎、いきなり吐血する。
奈菜子の白衣が血で染まる。
ぐったりする優一郎。
奈菜子「お兄ちゃん! お兄ちゃん!」
冷静にやってくる高沢、
高沢「バイタルは?」
奈菜子「・・お兄ちゃん・・・」
泣き出す奈菜子、動けない。
高沢「奈菜子、泣いてる場合か」
奈菜子「だって、お兄ちゃんにもしものことがあったら、わたし・・・」
奈菜子の胸元を掴む高沢。
高沢「何もできないなら出てけっ」
奈菜子を突き放す高沢、弾みで床に倒れる奈菜子。
高沢「胃カメラ準備して」
器具を用意する看護師。
立ち上がる奈菜子、看護師に、
奈菜子「私がやります」
テキパキ動き出す奈菜子。
○同 外観 (夜)
○同 優一郎の病室・前 (夜)
うろうろしている有森。
ドアが開いてでてくる奈菜子。
奈菜子「お父さん」
有森「どうだ? 優一郎は」
奈菜子「もう落ち着いてる。意識も戻ってるよ」
有森「そうか」
帰っていこうとする有森に、
奈菜子「会っていけばいいのに。声、かけてあげなよ」
有森「今の優一郎を認めているわけじゃない。お笑い芸人なんかに
成り下がって」
奈菜子「お笑い芸人のどこがいけないのよ!」
○同 優一郎の病室・中(夜)
ベッドの上の優一郎、廊下から聞こえてくる声を聞いている。
奈菜子の声「お父さんだって辛いこととか悲しいこととかあるでしょ。
でも、笑ってる時は、そんなことみんな忘れてる」
○同 優一郎の病室・前 (夜)
有森に必死で話す奈菜子。
奈菜子「お笑い芸人は、みんなを笑わせて、一瞬でも嫌なことを
忘れさせて・・・それが芸人の仕事なの。素晴らしい仕事なの」
有森「・・・・」
奈菜子「お兄ちゃんのこと、認めてあげてください」
頭を下げる奈菜子、去っていく有森。
優一郎の声「奈菜子」
ふりむく奈菜子、ドアの隙間から優一郎が呼んでいる。
○同 優一郎の病室・中 (夜)
ベッドの優一郎、傍に行く奈菜子。
優一郎「いいよ。もう。ありがと奈菜子」
奈菜子「お兄ちゃん。お父さんだってそのうちきっとわかってくれるよ」
優一郎「そうだな」
寂しそうな顔をする優一郎。
優一郎「先輩、いつ信州に戻るんだ?」
奈菜子「明日、かな」
優一郎「奈菜子・・・俺・・・」
奈菜子「大丈夫。私は医者として頑張るから。お兄ちゃんも、
早く元気になって、ガンガンテレビに出てよね」
優一郎「そうだな」
微笑む奈菜子をみつめる優一郎。
○同 外観 (夜)
○同 医局・中 (夜)
ダンボール箱に荷物を詰める高沢、ガムテープで蓋をする。
入ってくる奈菜子、
高沢「どうだ? お兄さんの具合は」
奈菜子「薬が効いてるみたいです」
高沢「なにかあったらここに連絡してくれ」
メモを渡す高沢、受け取る奈菜子。
高沢「電話でアドバイスぐらいなら、できるかもしれないからな」
奈菜子「・・・・」
高沢「それから荷物、暇なときにその住所に送ってもらえるかな」
奈菜子「はい。今まで有難うございました」
お辞儀する奈菜子をみつめる高沢。
高沢「ああ。元気で頑張れよ」
部屋の隅にダンボール重ねる高沢をみつめる奈菜子。
第3話につづく
代わりに、父親の病院を継ぐべく医者になる。
だが、高校時代から面倒をみてくれた兄の先輩で職場の
上司である高沢に、自分は医者に向いていないと訴える。
高沢は、「お前が医者をやめたらどうなるか、わかってるだろうな」
と兄の夢が崩れてしまう現実を突きつける。
奈菜子には、兄の夢を叶えるだけでなく、好きな人の
お嫁さんになるという夢をがあった。
登場人物
・有森奈菜子(26) 研修医
・高沢始(37) 奈菜子の上司
・有森優一郎((35) 奈菜子の兄、お笑い芸人・優太郎
・河野健太(7) 患者、優太郎のファン
・有森総一(62) 奈菜子の父親、有森病院院長
・河野真美(31) 健太の母親
・大杉(32) 優一郎のマネージャー
○エンタメビル・前 (夜)
お笑いライブのタテ看板。
○同 楽屋・中 (夜)
狭い個室でカップ麺をすする優一郎。
ノックの音、入ってくる奈菜子。
優一郎「奈菜子、珍しいな。お前が楽屋にくるなんて」
奈菜子「お兄ちゃん・・・」
優一郎「なんだ、そのしけた面」
× × ×
急須にお湯を注ぐ奈菜子。
優一郎「で、お前も高沢先輩についていきたいとかって思って
るわけ?」
動揺して、湯が手にかかる奈菜子、
奈菜子「あちっ」
優一郎「図星だった?」
奈菜子「違うよ。なんで私が・・・」
急須受け取って、湯飲みに注ぐ優一郎。
優一郎「好きなんだろう、高沢先輩のこと」
机の上の饅頭を無意気に頬張る奈菜子。
優一郎「お前の夢は、好きな人のお嫁さんになることだもんな」
奈菜子「やだな、そんな子どもの頃の夢」
優一郎「奈菜子ごめんよ。力になれなくて」
饅頭を喉につめる奈菜子、お茶をすすめる優一郎。
奈菜子「もう、お兄ちゃんが急に変なこというから」
優一郎「俺は覚悟している。いつ、お笑い芸人やめても悔いが
残らないように」
奈菜子「馬鹿なこと言わないでよ。私がどんな思いで医者に
なったか、優秀なお兄ちゃんにはわからないでしょ」
優一郎「わかってるよ。奈菜子がどんなに努力したか。こんなに
自分のために頑張ってくれた妹が悩んでるのに、何もしてやれ
ないなんて、俺は最低の兄貴だよ」
奈菜子「ごめん。お兄ちゃんに話したのが間違いだった。そうだ、
サイン頂戴」
優一郎「俺の?」
鞄から色紙を取り出す奈菜子、受け取ってサインを書く優一郎。
奈菜子「健太君へって書いてね」
携帯電話がなって出る奈菜子。
奈菜子「高沢先生! え、お母さん来てたんですか? その後、
健太君が居なくなったんですね」
奈菜子をみる優一郎。
奈菜子「わかりました。すぐ、戻ります」
電話を切る奈菜子。
優一郎「健太君って、色紙の?」
奈菜子「うん。もうすぐ心臓の手術なのに」
優一郎「大丈夫なのか」
奈菜子「うん。ありがとう、お兄ちゃん。じゃ、ライブ頑張ってね」
色紙を受け取って、部屋を飛び出していく奈菜子。
○歩道 (夜)
色紙持って走る奈菜子。
健太の声「僕んちパパとママが離婚するんだ」
転ぶ奈菜子、すぐに起き上がって、色紙を拾って走り出す。
○有森病院 玄関・前 (夜)
走ってくる奈菜子、中に入っていく。
○同 階段 (夜)
階段、かけあげる奈菜子、
奈菜子「健太君! 健太君!」
膝が痛んで立ち止まる。
膝から血がでていることに気づく奈菜子、だが、再び駆け
出す。
奈菜子「健太君!」
○同 談話室・前~中 (夜)
走ってくる奈菜子、
奈菜子「健太君!」
灯の消えた部屋、覗きこむ奈菜子。
通り過ぎようとして、テレビの横に黒い陰みつけて
灯をつける奈菜子、うずくまる健太。
奈菜子「健太君! 何してるの?」
健太のそばに近づく奈菜子。
健太「奈菜子・・・ほんとにママの代わりに傍にいてくれるの?」
奈菜子「うん。いるよ」
顔を上げる健太。
奈菜子「健太君のママ、今夜、会いに来てくれたんでしょ」
健太「うん。でも、僕の手術が済んだら、遠いところに行くんだって」
奈菜子「・・・・」
健太「僕はパパと暮らすんだ。でも、パパには別の家族がいる
から・・・僕には、もう、家族はいない」
奈菜子「そんなことないよ。ママに会いたくなったらママの所に
いけばいいじゃない」
健太「奈菜子・・・」
色紙を見せる奈菜子。
健太「優太郎のサイン?」
奈菜子「そうだよ。約束通りもらってきてあげたよ」
色紙を受け取る健太。
健太「ありがと、奈菜子」
奈菜子の胸に倒れこむ健太。
奈菜子「健太君!」
○同 健太の病室・中 (夜)
ベッドに眠る健太、傍でうたた寝している奈菜子。
そっと入ってくる高沢、毛布を奈菜子の肩にかける。
ハッとして立ち上がる奈菜子、毛布が床に落ちる。
奈菜子「すみません」
毛布を拾おうとして、奈菜子の足の怪我に気づく高沢。
高沢「足、どうしたんだ」
奈菜子「え? ああ、転んだんです。病院に戻る途中」
高沢「ちょっと待ってろ」
部屋をでていく高沢。
× × ×
膝を出して椅子に座る奈菜子、傷口に消毒薬をぬる高沢。
奈菜子「痛っ」
高沢「我慢しろ。ほんと、お前ってドジだな」
高沢をみつめる奈菜子、ときめく。
高沢「医者が怪我してどうするんだ」
奈菜子の膝にガーゼをとめる高沢。
高沢「よし、終わり」
奈菜子「ありがとうございます」
行こうとする高沢の背中に、
奈菜子「先生、あの、私、先生のことずっと・・」
ふりむく高沢、
高沢「有森」
奈菜子「はい」
高沢「手術の日、健太の両親に必ず病院にくるように伝え
といてくれ」
奈菜子「はい」
でていく高沢、立ち尽くす奈菜子、自分の膝のガーゼを
みて、ため息。
○エンタメビル 外観
○同 楽屋入り口
番組スタッフと話すマネージャーの大杉(32)。
大杉「限界ですかね。十年やって芽がでないとなると、マジ
やばいっすよ」
やってくる優一郎に、慌てて、
大杉「お疲れ様です。弁当、楽屋に届いてますよ」
優一郎「サンキュ」
楽屋の中に入っていく優一郎。
○同 楽屋・中
弁当食べる優一郎、箸が進まない。
大杉の声「限界ですかね。十年やって芽がでないとなると、
マジやばいっすよ」
腹部をおさえる優一郎、慌てて胃薬出して口に含む。
コップの水を一気に飲み干す優一郎、おおきなため息。
○有森病院 外観
○同 廊下
ストレッチャーで運ばれる健太、傍に付き添う奈菜子。
走ってくる河野真美(31)。
真美「健太!」
健太「ママ!」
真美「ごめん、遅くなって」
健太「仕事行っていいよ。僕、平気だから」
真美「健太・・・」
健太「奈菜子がいてくれるから」
奈菜子の顔をみる真美。
奈菜子「ずっとついてますから」
真美「よろしくお願いします」
頭を下げる真美、健太を乗せたストレッチャーが手術室の
中に入っていく。
○同 外観 (夕)
○同 健太の病室・中 (夕)
ベッドで眠る健太、傍につきそう真美。
点滴もって入ってくる奈菜子。
お辞儀する真美に、
奈菜子「健太君の手術が終わったら、遠いところに行かれるって、
本当ですか」
点滴を交換する奈菜子。
真美「実家のある九州に帰ろうと思って」
奈菜子「どうして健太君を連れて行ってあげないんですか」
真美「健太は父親が引き取ることになってます。それが離婚の
条件だから」
奈菜子「でも、健太君のお父さんは一度もお見舞いに来られた
ことがありません。今日も、仕事があるからと断られました」
真美「・・・」
奈菜子「それに、別の家族がいらっしゃるんでしょ」
真美「・・・健太・・・・」
健太の寝顔を見る真美の目から涙がこぼれる。
奈菜子「もう一度、健太君のために話し合われてはどうでしょうか」
真美「・・・・」
お辞儀して部屋をでていく奈菜子。
○同 外観 (夜)
電話のなる音。
○同 医局・中 (夜)
電話で話す奈菜子。
奈菜子「お兄ちゃん、心配してくれてたの? 大丈夫、上手く
いったよ。健太君の手術」
○エンタメビル 楽屋・中(夜)
携帯電話で話す優一郎、腹部を押さえたまま、
優一郎「お前は、大丈夫なのか。高沢先生がいなくなっても」
奈菜子の声「なんとかするよ。なんとか」
優一郎「そういう意味じゃなくて・・・」
激しい傷みに、体を曲げる優一郎。
奈菜子の声「お兄ちゃん?」
○有森病院 医局・中(夜)
受話器にぎる奈菜子、
奈菜子「お兄ちゃん!」
入ってくる高沢。
高沢「どうした?」
奈菜子「兄の様子が変なんです」
電話を変わる高沢。
高沢「優一郎、どうした?」
○エンタメビル 楽屋・中 (夜)
腹部押さえたまま携帯電話を握る優一郎、倒れこむ。
床に携帯電話が転がる。
○有森病院 医局・中 (夜)
受話器持つ高沢、傍に奈菜子。
高沢「優一郎! しっかりしろ」
奈菜子「何があったんですか」
高沢「彼は今どこにいる?」
奈菜子「渋谷のエンタメビルの楽屋です」
高沢「わかった」
電話をかけなおす高沢。
○エンタメビル 楽屋 前~中 (夜)
やってくる大杉と救急隊員、
大杉「だから、いたずら電話に決まってます。さっきまで舞台に
立ってたんですから」
中に入る大杉、倒れている優一郎に、
大杉「えーっ、有森さん! 嘘だろ、有森さんしっかりして下さいよ」
担架に優一郎を乗せる救急隊員。
○大通り (夜)
走る救急車。
○有森病院 救急受付入口・前 (夜)
救急車がやってくる。
○同 処置室・中 (夜)
台の上に横たわる優一郎。
走って来る白衣の奈菜子。
奈菜子「お兄ちゃん、しっかりして!」
優一郎「奈菜子か、白衣、よく似合ってるよ」
むせる優一郎、いきなり吐血する。
奈菜子の白衣が血で染まる。
ぐったりする優一郎。
奈菜子「お兄ちゃん! お兄ちゃん!」
冷静にやってくる高沢、
高沢「バイタルは?」
奈菜子「・・お兄ちゃん・・・」
泣き出す奈菜子、動けない。
高沢「奈菜子、泣いてる場合か」
奈菜子「だって、お兄ちゃんにもしものことがあったら、わたし・・・」
奈菜子の胸元を掴む高沢。
高沢「何もできないなら出てけっ」
奈菜子を突き放す高沢、弾みで床に倒れる奈菜子。
高沢「胃カメラ準備して」
器具を用意する看護師。
立ち上がる奈菜子、看護師に、
奈菜子「私がやります」
テキパキ動き出す奈菜子。
○同 外観 (夜)
○同 優一郎の病室・前 (夜)
うろうろしている有森。
ドアが開いてでてくる奈菜子。
奈菜子「お父さん」
有森「どうだ? 優一郎は」
奈菜子「もう落ち着いてる。意識も戻ってるよ」
有森「そうか」
帰っていこうとする有森に、
奈菜子「会っていけばいいのに。声、かけてあげなよ」
有森「今の優一郎を認めているわけじゃない。お笑い芸人なんかに
成り下がって」
奈菜子「お笑い芸人のどこがいけないのよ!」
○同 優一郎の病室・中(夜)
ベッドの上の優一郎、廊下から聞こえてくる声を聞いている。
奈菜子の声「お父さんだって辛いこととか悲しいこととかあるでしょ。
でも、笑ってる時は、そんなことみんな忘れてる」
○同 優一郎の病室・前 (夜)
有森に必死で話す奈菜子。
奈菜子「お笑い芸人は、みんなを笑わせて、一瞬でも嫌なことを
忘れさせて・・・それが芸人の仕事なの。素晴らしい仕事なの」
有森「・・・・」
奈菜子「お兄ちゃんのこと、認めてあげてください」
頭を下げる奈菜子、去っていく有森。
優一郎の声「奈菜子」
ふりむく奈菜子、ドアの隙間から優一郎が呼んでいる。
○同 優一郎の病室・中 (夜)
ベッドの優一郎、傍に行く奈菜子。
優一郎「いいよ。もう。ありがと奈菜子」
奈菜子「お兄ちゃん。お父さんだってそのうちきっとわかってくれるよ」
優一郎「そうだな」
寂しそうな顔をする優一郎。
優一郎「先輩、いつ信州に戻るんだ?」
奈菜子「明日、かな」
優一郎「奈菜子・・・俺・・・」
奈菜子「大丈夫。私は医者として頑張るから。お兄ちゃんも、
早く元気になって、ガンガンテレビに出てよね」
優一郎「そうだな」
微笑む奈菜子をみつめる優一郎。
○同 外観 (夜)
○同 医局・中 (夜)
ダンボール箱に荷物を詰める高沢、ガムテープで蓋をする。
入ってくる奈菜子、
高沢「どうだ? お兄さんの具合は」
奈菜子「薬が効いてるみたいです」
高沢「なにかあったらここに連絡してくれ」
メモを渡す高沢、受け取る奈菜子。
高沢「電話でアドバイスぐらいなら、できるかもしれないからな」
奈菜子「・・・・」
高沢「それから荷物、暇なときにその住所に送ってもらえるかな」
奈菜子「はい。今まで有難うございました」
お辞儀する奈菜子をみつめる高沢。
高沢「ああ。元気で頑張れよ」
部屋の隅にダンボール重ねる高沢をみつめる奈菜子。
第3話につづく
この記事へのコメント